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インタビュー企画「特技でメシを食う」シリーズ。
ルールは至ってシンプル。下記の3つのみ。

1.特技でメシを食っている人にその極意を聞く。
2.質問事項は毎回、以下の5つに固定(本文参照)。
3.次にインタビューする特技メシな人をご紹介いただく「紹介制」を導入。

第2回目にご登場いただくのはキックボクシング元世界チャンピオンで、現在はジムオーナーの新田明臣さん。パリなかやまさんからのご紹介。


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新田明臣(にった あけおみ)
1973年東京生まれ。高校時代にテコンドーと空手をはじめ、最初に出場した空手の大会で関東大会優勝など、頭角を現す。卒業後はキックボクシングのプロ選手になり、2000年と2007年に2度、世界王座を獲得。現在は恵比寿にあるジム「バンゲリングベイ」の経営者として選手の育成など、キックボクシング界の発展に貢献している。

現役時代に輝かしい実績を残した新田明臣さん。大人気を博した大会K-1 MAX 日本トーナメントにも出場して準優勝を果たすなど、他人から見るとまさに「華々しい道を歩いてきた成功者」だ。でも、居酒屋で肩肘張らずに2時間半じっくり話をうかがってみると、「身近に感じられる一面」が見えてきた――。

①あなたがメシを食べている特技は何ですか?

僕の特技は「キックボクシング」です。

高校卒業後から35歳までは現役のプロキックボクサーとしてリングに上がり、ファイトマネーをもらっていました。ただ、メシを食うという点からいうと、格闘技の世界は選手だけで食べていける人は1割にも満たないほど少なくて、バイトを掛け持ちしている選手が多いのが現状です。

これを言うと驚かれますが、僕自身も世界チャンピオンになる前だけでなく、なった後も警備などの仕事をしていたことがあります。だから、バイトをしながら選手をするというのは格闘技の世界では結構当たり前のことですね。そのなかでも自分は、できるだけキックボクシングに集中するためにスポンサーを探すなどの努力をしていたので、バイトをしていた期間は短いほうでした。



僕は結婚が早くて、27歳のときに長男が生まれて、2年後には次男が生まれたこともあって、選手だけで生活するのが難しくなり、2003年、30歳のときにジムの運営をはじめました。最初は江古田のパシフィックジムさんの一部を間借りして「バンゲリングベイ」と名前をつけてスタートしました。

現役を引退したのが2008年、35歳のときだったので、5年間は選手とジム運営の二足のわらじを履いていたことになりますね。でも、当時の格闘技界は上下関係が絶対だったこともあって、選手を引退してからジムを開くことが普通で、選手をしながらジムを運営するという人はいなかったんです。だから、この両立スタイルは僕がパイオニアなんですよ。

引退した年に、恵比寿にバンゲリングベイをオープンしました。江古田のあとに水道橋でもジムを運営していたのですが、今は恵比寿と僕の師匠であるニコラス・ペタスさんから引き継いだ駒澤の2店舗になっています。実質的な経営権をもつようになったのは恵比寿のジムからなので、経営者としては現在8年目になりますね。

色々と大変なことがありましたが、バンゲリングベイでは現役選手の育成に限らず、キックボクシングを通してエクササイズや心と体のバランスをとることを伝えているので、子どもや女性も通ってくれるアットホームなジムになっています。また、たくさんの芸能人の方々も常連になってくれています。

②特技でメシを食っていこうと思ったキッカケは?

格闘技をはじめたきっかけから話すと、自分の心を鍛えたかったからです。今の僕からは想像できないかもしれませんが、子どもの頃は気が弱くて、言いたいことを言えない少年でした。そこにコンプレックスを感じていて、高校生の頃に「格闘技をやって強くなれば心も強くなる」と思ったんです。要するに、自分に自信をもちたかったんですね。

でも、最初は格闘技をはじめる勇気すらなくて……。そんな僕にきっかけを与えてくれたのがテコンドーをはじめた同級生でした。テコンドーは「足のボクシング」と言われていて、足技が神秘的に見えて自分もやりたいなと。それに、通うのが週1回だけだったから友人についていけばできるかもと思って。これが週3回だったらやってなかったと思います、本当に(笑)。

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取材は「北海道 恵比寿ガーデンプレイス店」にて

それではじめてみたら、僕にはたまたま格闘技が向いていたんです。テコンドーが面白くなって、その後には空手もはじめて。初めて出た高校の空手の大会では関東大会にも出場してオール1本勝ちで優勝しました。本当にあれよ、あれよという感じでしたね。そのときに「あ、自分って強いんだ。格闘技は自分に向いている」と確信しました。

それが格闘技でメシを食って行こうと思ったきっかけで、高校を卒業してプロキックボクサーになりました。もう1つ動機を付け加えると、高校3年生のときに後楽園ホールにキックボクシングの試合を見に行ったんですよ。そのときの入場シーンがとにかくかっこよくて、その姿に憧れて。その試合の勝ち負けは記憶にないのですが(笑)、自分もかっこよく入場したい!と思いましたね。

③特技を収益化するうえで、これまでにあった苦労や失敗は?

現役時代の話をすると、①で話した通り、選手だけで生活をするというのはなかなか難しいことです。ただ、僕が最初に格闘技をはじめたモチベーションは「自分の心を強くしたい」ということだったので、たいしてお金にならなくてもプロキックボクサーを続けることが苦になりませんでした。

一時期は、K-1で魔裟斗選手のようなスター選手が出てきて、格闘技が一大ブームになったことがあります。僕もそのブームの波に乗って有名になろうと無理矢理モチベーションを上げてみたのですが、最初のモチベーションである「自分の心を強くしたい」には絶対に勝てないんですよね。すぐに無理をするのが気持ち悪くなって、元に戻りましたけど。

今も格闘技に関わり続けているのは、最初のモチベーションが変わらず僕の中にあるからです。これは格闘家に限ったことではなくアスリート全般に言えることですが、多くの人が苦労するのは引退後の仕事ですね。現役時代は競技に集中していて、社会的な一般常識をなかなか学ぶ機会がないから、いきなり経験のない飲食店などをオープンしても失敗する人が本当に多いんですよ。

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僕は格闘技のおかげでここまで来られたので、格闘技の世界に恩返しをしたいと思っています。その1つが引退後にも格闘技と関わっていけるジム経営というモデルを示すことです。うちのジムには現役の選手がたくさんいますが、彼らが独立してジムをやりたいと言ったら支援は惜しみなくするし、バンゲリングベイののれん分けみたいなことも考えています。

とはいえ、ジム経営も最初は楽ではありませんでした。僕が経営者になったのは2008年の恵比寿のジムオープンからですが、自分は本当に何も決められない男だったんです(笑)。ジムの場所も、リングをどこに設置するかなどの内装も、本当に何も決められなくて。まわりからの強烈なプレッシャーでやむなく決めたという感じでスタートしました。

今になって振り返ると、それは全て導かれていたんだなと思います。今では恵比寿以外に考えられないし、リングの場所も休憩所の場所も最初の頃から何一つ変えてないんですよ。ただ、経営面は4年目ぐらいまでは綱渡り状態でしたね。今の形のように、老若男女さまざまな人が来てもらいたいと思って、料金プランを複数のパターンつくるなど努力はしていました。

でも、最初は人がなかなか集まらず、家賃を滞納したり、借金もしました。とにかく厳しかったですね。そこを乗り越えられたのは「自分を信じたから」の一言。そう考えるようになったのはオープン時にプレゼントされた『ザ・シークレット』という本を読んで、「自分の思いが現実をつくる」、「自分で引き寄せる」などの重要性を知り、そこからブレなくなったからです。

ザ・シークレット
ロンダ・バーン
角川書店
2007-10-29


オープン当初は「何も決められない男」だった僕が、その後は全部自分で決断するようになって、自分が信じたことに対しては人からどんなにネガティブなことを言われても、あえて聞く耳をもたないようにしました。だって、人の言うことは変わるものだから。実際に、ジムがうまくいくようになったら「早く潰せ」と言っていた人達が「どんどん拡大しろ!」と言いますからね(笑)。

④特技でメシを食うことの最大の喜びは?

自分が得意なことを毎日やっているので楽しいですね。僕はこれを思い切りかっこ悪く言いたいんですが、自分には格闘技しかなかったんですよ、本当に。歌がうまければ歌手になりたかったし、演技がうまければ俳優になりたかった。でも、僕は格闘技しかできなかったし、それ以外の世界を本当に知らないんです。格闘技にばかり時間を費やしてきましたから。

その格闘技を通して、僕は自分の心を強くすることができたし、信じることや夢をもつことの大切さを学ぶことができました。だから、格闘技で培ったことを「格闘技の経験がない方」に還元していきたいと今は思っています。それは僕に向いていると思っていて、自分の強みは格闘技を人生に置き換えて全て説明することができるところです。

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バンゲリングベイのHPはこちら http://www.bungelingbay.com/ 

たとえば、会話。初対面ではお互いに緊張していて、最初は牽制しますよね。これはジャブです。ジャブを繰り出して距離感が合ってきたら、正直な気持ちをストレートに伝える。言葉通り、ストレートパンチを出すということです。じつは、格闘技に限らず、人生はどんなことでも本質は同じで、共通点ってたくさんあると思うんです。

このように言葉にして説明できるということは大切なことで、たとえ無意識に何かの分野で成功したとしても、なぜ成功したかを分析・説明できないと他の分野に応用することは絶対にできません。でも、きちんと分析・説明ができれば、一般論に落とし込むことができるんです。

僕が一番うれしいのは、自分が格闘技の世界で経験してきたことを言葉で人に伝えられて、それがその人のためになったり、喜んでもらえたりするときですね。感謝されると、やっぱりこのジムを開いてよかったなと心から思います。

⑤特技でメシを食うための「あなただけの秘訣」は?

特技でメシを食うということは、「自分が自分自身の経営者になる」ことを意味すると思います。それはイコール、自分のオリジナルを出していくということでもある。そのために大切なことは、自分自身と向き合って、自己評価を上げていくことでしょうね。負けや失敗も含めて、たくさんの経験をして、現実と向き合いながらも絶対に現実には負けないこと。

僕はよく「経験こそが宝」と言うのですが、自分は現役時代にたくさん試合で負けた経験があります。でも、負けたからダメということはなく、失敗経験こそが宝物になっているんですよ。負けたからこそ、次は絶対に勝とうと考えて、成功体験をつかむきっかけになったりする。だから、どんな経験もプラスになるので、そこで折れずに自己評価を上げていくことです。

そのためには背水の陣を敷くというのも1つの手段ですね。ジムの選手を見ても、恵比寿のジムをオープンした頃の自分を振り返っても思うのは、自分で覚悟をもって決断をすれば嫌でも前に進むし、色々なことがあったとしても、「自分で決めたことだから」と前を向くことができるということ。一歩踏み出す勇気をくれる友人が近くにいるということも大事なことですね。



努力というより、決めることです。僕は格闘技の世界で活躍することができましたが、自分が努力したとは全く思ってないんですよ。格闘技しかないという背水の陣の状態だったから、たまたまこうなっただけのことで。正直に言えば、僕はせっかく格闘技の才能をもらったのに、努力をしなかったと思うことがあります。「もっと努力をすれば結果を残せたのに」と、結局は努力の前にゴールや結果を決めないから(自信がないから)見合う努力もできないのだと思います。

とにかく「これでいく!」と決めたら、後は「こうなりたい!」という思いやイメージを強くもつことが大切です。あの人は凄いと思うような社長や有名人でも、みんな同じ人間で実際のところ大した差なんてないんですよ。思いを強くもつことで、遥か高みにいると感じる人との差を一気に縮めることが本当にできます。それぐらい思いって大事なことなんです。

僕も「この人は違う世界の人だ」と思われることがよくありますが、本当に他の人と同じなんです。思いやモチベーション、つまり自分次第で人生は全て変わります。特技でメシを食うでも何でもそうですが、自分で決めたことでうまくいかないことがあっても、周囲や環境のせいにしないことですね。大丈夫。強い思いは現実のものになりますから!


―編集後記―

2時間半に及んだ取材(という名のサシ飲み)。新田さんは格闘技だけでなく、酒も強い男だった。非常に濃密な時間で、テープ起こしのうち、泣く泣くカットした箇所が多数あるのが大変惜しい。

取材当初、本文中に出てくる、新田さんを「違う世界の人」と見ていたのがまさに私だ。でも、新田さんはイカツイ外見とは裏腹に、語り口はとても優しく、常に自然体で「身近に感じ合うことがお互いの成長に繋がる」と何度もおっしゃっていた。

新田さんのブログを読むと、「世界平和」という言葉が頻繁に出てくるのだが、その理由が少し垣間見えた気がした。

代官山ブックス
廣田喜昭


「特技でメシを食う」シリーズ リンク
第2回 新田明臣さん(キックボクシング元世界チャンピオン/ジムオーナー)
第3回 ミワンダフルさん(メイクスマイルアーティスト)

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