はじめまして、代官山ブックス 代表の廣田と申します。

「売れてない芸人(金の卵)シリーズ」の企画・編集・発行人です。

今回は、このシリーズにかける、僕の“思い”を、ここに記します。

シリーズ看板イラスト

シリーズ名について

「売れてない芸人(金の卵)シリーズ」

自分で付けておきながら、大変失礼な名前である。

今回、このシリーズで書いていただく芸人さんには、会って、またはオンラインMTGで、またはTwitterのDMで、僕が直接、執筆依頼をしている。

ご本人とマネージャーさんを目の前にして、

「大変恐縮ながら、シリーズ名は“売れてない芸人(金の卵)シリーズ”で……」

と説明する。突如どこからともなく現れた男がそんな失礼なことを言うなんて、とんでもない奴だと思うが、僕は僕で、とんでもなく恐縮し、緊張し、震える思いで伝えてきた。

そんな思いをしてまで、このシリーズ名にしたのには、深い訳がある。

高校ズ 秋月くんとの出会い

シリーズがはじまるきっかけは、現在はフリーで活動しているコンビ・高校ズの秋月くんに書いてもらった『売れてない芸人が書いた17の話』(2020年11月刊行)だった。

馴れ馴れしく「秋月くん」と呼んでいるのは、他の芸人さんとは違い、今から20年前に出会ったという“独特の関係性”があるからだ。そして、この関係性があったからこそ、シリーズ展開に繋がった。

当時、僕の親友の大学の後輩になった秋月くん。その後、大学を中退して、お笑い芸人の道へ進むわけだが、その過程を親友から聞き、そして僅かながらではあるが直接見てきた。

大井町で行われた養成所の卒業公演ライブに親友と2人で見に行ったことを、今でもとてもよく覚えている。坊主頭がかわいい、まだあどけない少年のような“芸人の卵”だった秋月くんは、大きな会場の大きな舞台に、トリで出てきた。

「なんてかっこいいんだろう」と思った。

それから約20年、秋月くんとは数回しか会わなかったが、僕は出版社をはじめており、面白い本を書いてくれる人を常に探していた。そこで、満を持して秋月くんに声をかけ、はじまったのが、上記の『売れてない芸人が書いた17の話』である。

この本をつくりはじめたときは、シリーズで展開するなんて、全く考えていなかった。

芸人とは、生き様である

「シリーズにしよう」と思ったのは、秋月くんと本を制作する過程で、

【 芸人とは、生き様だ 】

と強く感じたからだ。何を部外者が偉そうに…と思われるかもしれない。それはその通りで、反論の余地はない。だが、僕は秋月くんの生き方から、言葉の端々から、それを感じてしまったのだから仕方がない。

売れてる、売れてない――そんなことは一切関係なく、芸人さんはクリエイターであり、アーティストだと思った。明日、突如として売れて、身の回りの環境が一変する“覚悟”をもって芸に生きる芸人さんは“金の卵”そのものだと思った。

制作過程において、秋月くんは、一度書き上げた原稿を全て書き直すほどのこだわりをもっていた。そして、完成した本はやっぱり面白かった。

本音を言うと、僕はもっと秋月くんの“生き様”を色濃く出したかったところはあったけれど、そこは双方が遠慮なく言い合い、納得のうえ、今の形になった。

僕はいつか、秋月くんの“生き様”を色濃く出した本を出したいと、今も強く思っている。それもまた、間違いなく面白いものになると、確信している。

そして、シリーズ化へ

秋月くんの本を出版したことがきっかけで、僕は「コンテンツとして間違いなく面白い、売れてない芸人さんの生き様や個性を色濃く浮き彫りにした電子書籍のシリーズを展開したい」と思うようになった。

シリーズとして展開することで、絵本の「スイミー」の如く、1つひとつの個性が集まって大きくなり、存在感が高まり、注目が集まり、1冊1冊の読まれる可能性が高まるのではないか、という狙いがあった。

シリーズ名に「売れてない芸人」というキャッチーな言葉をあえて使うことで、読んでもらう可能性をさらに上げる。好きな芸人さんや賞レースなどで注目が高まった芸人さんの本を1冊読み、そこから“連鎖反応”が起こることも十分にあると思った。

それが実現できれば、「読者・著者の芸人さん・所属するプロダクション・出版社」の4者にとって良い循環が生まれる、「三方よし」のさらに上をいく「四方よし」が実現できるのではないかと考えた。

その思いを企画書にして、何の面識もない芸人さんと所属プロダクションのマネージャーさんや社員さんに突発的にぶつけてみると、予想外に、多くの芸人さんが許諾してくれた。本当は、もっと断られたり、怒られたりすると思っていた。

そうやって、次々に会いに行き、震えながら説明していくと、気づいてみれば、下記のプレスリリースにあるように、大手プロダクションが11社も参加してくださる、業界横断型のシリーズになっていた。

【売れてない芸人(金の卵)シリーズ】創刊!
お笑い業界横断(プロダクション11社 & フリー)でつくる、芸人の“個性”と“生き様”が爆発する電子書籍シリーズ

このプレスリリースを出したことがきっかけで、複数のプロダクションから新たにご連絡と、参加の希望をいただき、現在はさらにパワーアップを続けている。各プロダクションからの執筆予定の芸人さんも増えている。

これについては、近日、改めてプレスリリースを配信する予定だ。

※2021年3月11日に下記プレスリリースを配信しました。

『売れてない芸人(金の卵)シリーズ』
M-1ファイナリスト「ウエストランド 河本太」& R-1ファイナリスト「寺田寛明」参戦/ 新刊 Amazonベストセラー1位 獲得

https://www.atpress.ne.jp/news/250630

本づくりの僕の“こだわり”

「売れてない芸人(金の卵)シリーズ」の本をつくるにあたり、僕には強いこだわりがある。

それは、「著者に楽しんで書いてもらうこと」である。

実際に、出版企画書には「楽しんで書いてください」と明記している。その理由は、読者には、著者がワクワクして書いたか、義務的に仕事として書いたかは、明確に伝わるものだと思っているからだ。僕もたくさんの本を読んできて、それはやっぱりわかる。伝わってしまう。

編集者がどんなに頑張っても、原稿に“載せられないモノ”がある。

それは著者がもつ“エモーション”だ。編集段階で、編集者がどんなに原稿をこねくりまわそうが、それだけは絶対に載せることができない。3日3晩、徹夜しようが、それは無理なのである。そして、読者としての僕が本に期待するのは、何よりも著者のエモーションだ。

だから僕は著者に、原稿を書くときは、エモーショナルに、感情を叩きつけるように、ときには怨念をぶちまけるように、楽しんで書いてもらうことを大切にしている。

この本のつくり方は、通常の“出版界の常識”とは大きく異なる。

編集の現場では、最初にマーケティングの観点などから、企画、目次建てや構成をしっかり考えて、項目ごとのボリュームを決めて、そこに“当てはめていく”ように著者が書いていく(または代わりにライターが書く)、というのが一般的な出版社の本のつくり方だと思う。

今回のシリーズでは、僕が著者の個性を調べ、ある程度の企画の提案はするものの、それも著者は自由に変更することが可能だ。「楽しんで自由に書いてください」なんていうのは、異例中の異例だろう。

こういうやり方をしていると、あまりに異例すぎて、「それは編集者が仕事をしていないのと同じ」と怒られることがある。「普通の出版は、こうするものだ」と諭される。

おっしゃることは全くもってその通りで、これまた反論の余地はない。ただ、僕自身も、毎月のようにある有名雑誌で記事執筆の仕事をしているし、過去にはブックライターとして10万字以上の紙の本を何冊かまとめた経験もあるので、それは十分にわかっている。

それでも、あえて、この“異例の方法”を取っているのは、「普通と言われる今の出版の方法を、そもそも疑うべきじゃないか」と思っているからだ。今の出版界の状況を見ると、それはもう哀しいほどに右肩下がりである。勢いよく売れ続けているのであれば、今までと同じ“普通の方法”を取ればいいのかもしれない。

でも、「今はそうじゃない」と僕は思うのである。

それに加えて、著者の芸人さんたちは「人を笑わせて死んでいこう」と生きる、普通ではない、クリエイターであり、アーティストであり、傾奇者だ。

そんな人達に原稿を書いてもらうときに、「マーケティング目線で構成を固めて、そこに当てはめるように……」なんてやり方をしてしまっては、芸人さんがもつ個性や本来の輝きが全部失われてしまう。そんなものを僕は読みたくない。

この方法を取ることができるのは、僕が個人でライターをしていて、10万字以上の紙の本も、雑誌での記事もたくさん書いてきて、「ある程度、どんな原稿が来ても、きっと何とかできる」という自信があることも大きい。

どんな球でも、投げ方でも、気にせずに、「思い切り気持ちよく投げこんでください」と言えるキャッチャーでありたい。

今まで自分がやってきたことが、全て繋がって、このスタイルになっている。

著者と編集者の2人が面白いと思えば、いい

もう1つ、僕にはこだわりがある。

それは、「著者の芸人さんと、編集者の僕の2人が面白いと思えばいい」ということだ。

たとえば、最近刊行したタイタン所属のネコニスズ ヤマゲンさんの著書『吸って大阪、吐いて東京』の本の奥付はこうなっている。

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クレジットに載っているのは、著者のヤマゲンさんと、企画・編集・発行人の僕の2人の名前だけ(シリーズの他の本は、表紙デザインはシリーズ統括の飯田亜紗美さんが入る)。

一方で、最近の大手出版社の本の奥付を見ると、たくさんの人の名前がスタッフとしてずらりと並んでいることがある。かくいう弊社も、以前は外部の信頼できる仲間に、事前に原稿を読んでもらい、その感想をもとに内容を変更していたことがあった。

でも、今は全くそういうことをしていない。というか、絶対にしない。

その理由は、クリエイターであり、アーティストである著者の芸人さんの生き様や個性で表現された面白さを、粗削りであっても“超絶濃厚”なままに、世の中に出したいからだ。

綺麗にスベスベに丸くした玉をやさしく読者に手渡すのではなく、トゲトゲでゴツゴツな岩のような熱い思いを読者にぶつけたい。

僕は、人の手が入れば入るほど、丸くスベスベに、スーパーに並んでいる不思議に全てが真っすぐな野菜のようになると思っている。でも、生き物の本来の姿って、そんなに綺麗でも、真っすぐなものでもない。僕は、それを、そのままに出したい。

ただ、これだけは強く言いたいのだけれど、「著者の芸人さんが自由に書いた原稿を、そのまま横流しするように出す」という話とは、全く違う。

僕は、編集段階で、読者視点でコメントを入れて、何度でも修正をお願いする。これは価格を付けて売る“熱い思い”に至っていないと思うものは出せない。

さらに、徹底的に、句読点1つ、改行1つにこだわって、どうしたらこの芸人さんの熱い思いを、気持ちよく、ストレートに、時にはより効果的に、読者にぶつけられるかを考え、こだわる。

文章ではなく、“映画のように読める”ことを意識している。頭の中にイメージと、世界観が広がるように、文言1つ、句読点1つ、改行1つにこだわりぬく。

文章ではない。テキストクリエイティブである

こうしてつくりあげた作品を僕は「テキストクリエイティブ」と呼んでいる。

文章では、もはやない。芸人さんが、普段活躍している“舞台”とは異なる表現の場である“テキスト”という場で、ご自身の生き様と個性をもとに芸をふんだんに発揮していただき、自らが楽しみ、それ以上に読者を楽しませてもらう。

テレビで芸人さんの芸を見て笑う――。このシリーズで行われることは、あれと何ら変わりはない。テレビが、舞台が、スマホの中の電子書籍になっただけの話である。

僕はこれからも、1人でも多くの「売れてやる」と夢見る芸人さんたちと、できる限り最高の「テキストクリエイティブ」を生み出していきたい。

このシリーズは、きっとますます盛り上がっていく。それは僕個人の力ではなく、売れてない芸人さんたちがもつ“クリエイターとしての底力”と、“人を笑わせて死んでいこうという執念”が凄まじいからだ。リスペクト、しかない。

読者の皆様には、売れてしまってからでは絶対に書くことのできない、“売れてない芸人の<今>だからこそ書ける生き様”を存分に味わっていただきたい。


2021年3月6日
「売れてない芸人(金の卵)シリーズ」
企画・編集・発行人 廣田喜昭

吸って大阪、 吐いて東京 【売れてない芸人(金の卵)シリーズ】
ネコニスズ ヤマゲン
代官山ブックス
2021-03-01




ケチを極めた芸人道 【売れてない芸人(金の卵)シリーズ】
シューマッハ中村竜太郎
代官山ブックス
2021-02-01